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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)1261号 判決

原告 河野秀隆

右法定代理人親権者父 河野敏夫

同母 河野愛子

右訴訟代理人弁護士 芝原明夫

同 高橋典明

被告 甲野一郎

右法定代理人親権者 乙山花子

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 藤田一良

主文

一  被告甲野一郎は、原告に対し、金一〇一一万八七六円及び内金九二一万八七六円に対する昭和五三年九月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告乙山花子、同丙川春夫に対する請求及び被告甲野一郎に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中原告と被告甲野一郎との間に生じた分はこれを三分し、その二を被告甲野一郎の、その一を原告の各負担とし、原告と被告乙山花子、同丙川春夫との間に生じた分は原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは、各自原告に対し、金一九二一万七九六三円及びうち金一七四一万七九六三円に対する昭和五三年九月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和五三年九月一五日午前一一時三〇分ころ、被告甲野一郎(以下、被告甲野という。)ほか二名の友人とともに兵庫県東条湖へ魚釣りに出かけ、岸辺で約二メートル間かくで横一列に並びルアーキャスティングの道具の準備にかかっていた。そのとき、原告の左隣にいた被告甲野は、先に準備をすませてさらに一・五メートル位岸辺に近ずき、一投、二投をしたあと、三投目に長さ二センチメートルの鉤が二か所ついた約六センチメートルのルアーをつけた長さ二メートルの釣竿を真横から横振りに振り回してキャスティングしたため、被告甲野の斜右後方にいた原告の右眼にルアーの鉤がつきささった(以下、本件事故という。)。原告は、直ちに小野市民病院で治療を受け、釣鉤を摘出したが、結局、眼球損傷のため神戸大学医学部附属病院で右眼球摘出手術を受け完全失明するに至った。

2  被告らの責任

(一) 被告甲野は、キャスティングの際、ルアーが人の顔面等に衝突すれば重大な結果が生ずる危険があり、釣竿を横振りすれば右の危険が生ずるおそれがあるから、付近の人に十分注意を払うとともに竿を横に振ったりなどしないようキャスティングの方法に十分注意してルアーを付近の人に衝突させない注意義務があるのにこれを怠り、付近にいた原告の動静に注意せず漫然と横振りでキャスティングを行った結果ルアーを原告の右眼に衝突させたのであるから、被告甲野は、不法行為責任に基づき原告が本件事故により蒙った損害を賠償する責任がある。

(二) 被告乙山花子(以下、被告乙山という。)は、被告甲野の母であり、日常から被告甲野が危険な行動に出ることのないよう注意を与え、指導監督する義務があるのにこれを怠り、被告甲野に危険な大型ルアーを買与え、あるいは小遣としてその購入資金を与えたため本件事故が発生したものであるから、不法行為責任により原告が本件事故により蒙った損害を賠償する義務がある。

(三) 被告丙川春夫(以下、被告丙川という。)は、昭和五一年ころから被告乙山と関係があり、同被告及び被告甲野と生活を共にしており、自己の乗用車に被告甲野を同乗させたり、日曜日には被告甲野方で家事を手伝ったりして、被告甲野、同乙山と事実上同居しているもので、被告甲野の事実上の父親の立場にあり、被告乙山と同様、被告甲野が危険な行為を行い他人に傷害等の結果を発生させないように行動を十分監督する義務があるにもかかわらずこれを怠った結果本件事故が発生したものであるから、不法行為責任に基づき、原告が本件事故により蒙った損害を賠償する義務がある。

3  原告は、本件事故により次のとおりの損害を蒙った。

(一) 治療費 二四万二〇五四円

原告は、本件事故による受傷のため、昭和五三年九月一五日から同年一〇月七日まで入院し、同月八日から同年一一月九日までに九日通院し、同月一〇日から同年一二月一七日まで入院し、同月一八日から昭和五六年一月三一日までに二九日通院し、その治療費として二四万二〇四五円を要した。

(二) 入院雑費 四万九〇〇〇円

原告は、入院中一日一〇〇〇円の割合による四九日分合計四万九〇〇〇円の雑費を要した。

(三) 入院付添費用 一一万九三八〇円

貸布団等 四三八〇円

付添日当二三日分 一一万五〇〇〇円

(四) 入通院交通費 八万四五二〇円

(五) 義眼装置費 六万二〇〇〇円

(六) 逸失利益 一二八一万一〇〇九円

原告は、右眼失明により、労働能力を四五パーセント喪失したもので、原告の就労可能年数を四九年、平均賃金を年間一二六万三六〇〇円(昭和五二年度賃金センサス第一表による)として原告の労働能力喪失による将来の逸失利益をホフマン式により中間利息を控除して算定すると、別紙計算書(1)記載のとおり、一二八一万一〇〇九円となる。

(七) 慰謝料 四二〇万円

(八) 弁護士費用 一八〇万円

(九) 損害の填補 一五万円

原告は、被告らから見舞金一五万円の支払を受けた。

4  よって、原告は、被告ら各自に対し、前記3(一)ないし(八)の損害金合計一九三六万七九六三円から前記3(九)の一五万円を控除した一九二一万七九六三円及びうち弁護士費用一八〇万円を除いた一七四一万七九六三円に対する昭和五三年九月一五日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の事実のうち、原告が被告甲野ほか二名と、昭和五三年九月一五日、東条湖へ魚釣に行ったこと及び原告が被告甲野のルアーで受傷したことは認め、その余の事実は否認する。

2  同2、3の事実は否認する。

三  被告らの主張

1  本件事故は、主として原告の過失によって生じたものである。すなわち、被告甲野ら四名は東条湖で各自キャスティングの準備を開始したが、被告甲野が早く準備を終え第一投を行い、さらに遠くへ飛ばそうと第二投目、第三投目を試みた。本件事故は、被告甲野が第二投ないし第三投を行ったとき、原告が被告甲野の気づかぬうちに被告甲野の右後方約一メートルの場所に移動して同人の視界の及ばない後方真近にまわり込み、かつ被告甲野のやるぞというかけ声による警告を無視し、自らの場所を適切に移動しなかったことにある。およそ、キャスティングを行うに際しては、釣人は、先投者がキャスティングを開始した後はその妨げにならないように注意し、先投者の真近に入りこむなど危険な行動をしてはならないにもかかわらず、原告は、被告甲野の動静に注意を払わず場所を移動したことは常識では考えられない不注意であり、原告の過失は極めて大きい。したがって、原告の損害額算定に当っては大幅に過失相殺されるべきであり、原告の過失割合は七割とするのが相当である。

2  被告乙山は、平素から被告甲野に対し、友人たちと遊ぶ際にもいささかも危険なことをしないよう十分注意し監督してきた。本件において、被告甲野は、被告乙山の全く知らないうちに原告らと誘いあわせて早朝ひそかに家を出たのであり、被告乙山は被告甲野らの東条湖行きを全く知らなかった。また、ルアーの購入も被告甲野が小遣の中から買ったものであり、被告乙山はこのことを全く知らなかった。

3  被告丙川は、喫茶店を経営し、被告乙山を店員として雇入れているが二人の間に大人の付合いがあることから、時々被告乙山の家で食事をしたり寝泊りすることもあるが、被告乙山と同居しているわけではないし、被告乙山の子供達に干渉したり、教育、監督することは全くなくつとめて無関係に終始している。被告丙川は、被告甲野の親権者ではなく、同人を監督すべき立場にもないから、被告甲野の事実上の父親として責任を問われることは不当である。

第三証拠《省略》

理由

一  原告は、昭和五三年九月一五日、被告甲野ほか二名とともに東条湖へ魚釣に行ったこと、その際、原告が被告甲野のルアーで受傷したことは当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告(昭和三九年五月九日生、当時一四才)は、中学二年の友人である被告甲野(昭和三九年一一月一一日生、当時一三才)丁原竹夫、戊田松夫の三名とともに、東条湖ヘルアーキャスティングによる魚釣に行くこととしたが、原告及び被告甲野はルアーキャスティングの方法は始めてであったのでまず道具を揃えることとなった。被告甲野は、母親に相談することなく以前からためていた小遣で二メートル位の中継の竿とリール及び長さ約二センチメートルの鋭利な鉤が二か所についている約六センチメートルのルアー等を新しく用意するとともに、母親の被告乙山に東条湖に魚釣に行くことを話した。同被告は一旦は反対したが、本件事故前日ころに魚釣に行ってもよい旨許可を与えた。原告ら四名は、昭和五三年九月一五日午前四時ころ家を出発し、同日午前一一時ころ東条湖に到着した。

2  原告ら四名のうちでは丁原が一番釣の経験が豊富だったことから、同人が適当な釣場を選び、四名は水辺から二・三メートル離れたところに約二メートル間隔で湖面に向って左から丁原、戊田、被告甲野、原告の順に横一列に並んで釣道具の準備にとりかかった。原告らが釣場とした場所は、水辺から、約五メートル位離れたところにある堤までの間で、四名が右のように横一列に並ぶのが精一杯でそれ以上横にも広がることのできない狭いところであったが、四名で一緒に並んで釣るのに他に適当な場所がなかったことからその場所で釣ることにしたものであった。四名のうち被告甲野と戊田が他の二名より早く準備ができたので、被告甲野は、戊田とともに準備していた地点から約一メートル位水辺の方に前進して、「投げるそ」と声をかけたうえ第一投を行った。ところが、被告甲野の第一投は風の影響もあって一〇メートル位しか飛ばなかったので、同被告はつづいて第二投を行ったがこれも同じ位しか飛距離が出なかった。その間原告は、もとの位置で釣道具の準備をしながら、被告甲野が第一、二投を行うのを見ていたが、同被告が第三投に入る前に同被告から目を離し湖を背にして中腰になり鞄の中のルアーを探していた。その時、被告甲野は、第三投を行ったところ、ルアーが右斜め後方にいた原告の右眼を直撃しルアーの鉤が右眼球につきささった。原告は、直ちに救急車で病院に運ばれ治療を受けたが、結局、右眼球裂傷のため右眼球摘出手術を受け、右眼は完全失明するに至った。

以上のとおり認められ(る。)《証拠判断省略》

三  そこで、本件事故に対する被告らの責任について判断する。

1  前記二で認定した事実によれば、被告甲野は、本件事故当時一三才一〇か月の中学二年生で、本件事故の如き行為について法的責任が生じることを認識するに足る知能を具えていたものであり、ルアー、キャスティングを行う際には、投げ方によってはルアーについている鋭利な鉤が付近の人に当たって傷害等重大な結果を発生させるおそれがあることを十分に予見し得た筈であると考えられるところ、被告甲野がルアーキャスティングを行った場所は四名が二メートル間隔で横一列に並ぶと一杯になる程度の狭い場所であり、被告甲野がキャスティングを行ったときには原告とは二メートル余程度しか離れていなかったのであるから、被告甲野は、原告に先立ってキャスティングを行うに際しては、原告との位置や距離関係を確認し、竿の長さ及び竿の先から垂らした糸の長さ、キャスティングの方向、風等の影響の可能性等からルアーの飛行圏内におしはかり、付近にいる原告に危険が及ぶ可能性があるときは声をかけて同人を遠ざける等してルアーが原告に当らないような方法でキャスティングを行うべき注意義務があるのに、これを怠り、原告との位置関係等を確認することも警告を発して原告を遠ざけることもせず、漫然と第三投を行った結果本件事故を発生させたものと認められるから、被告甲野は、原告に対し、不法行為責任により原告が本件事故により蒙った損害を賠償する義務があるというべきである。

2  次に、被告乙山の責任について判断する。

前記二で認定した事実によると、被告乙山は、被告甲野の母親として、同被告が友人らとともに東条湖に魚釣に行くことを許したが、具体的な魚釣の方法や使用する道具についての詳細は知らなかったものであり、また、魚釣は、鋭利な鉤を用いることがあり、不注意な取扱い方をすれば他人に傷害を負わせる可能性が絶無とはいえないものの、一般的には他人に危害を及ぼす蓋然性が高い行為ということはできず、被告甲野が中学二年生で魚釣の方法、道具の取扱い方について十分判断能力を有していたものと思われるところから、被告乙山が、被告甲野が魚釣に出かけるに際し、他人に傷害を負わせる事故の発生することまでを予測して同被告の行動に対して具体的な注意を与えて事故の発生を未然に防止する注意義務を負うものとは到底認められないし、本件事故が極めてまれで偶発的な事故であったと考えられることからすると、被告乙山が被告甲野の魚釣の方法や使用する道具について注意を払わなかったからといって、被告甲野に対する指導監督義務を怠ったものということもできない。

したがって、被告乙山は、本件事故について原告に対して不法行為責任を負うものではない。

3  原告は、被告丙川は、被告甲野の事実上の父親であるから同被告の行動を監督する義務があるのにこれを怠った不法行為責任がある旨主張する。

《証拠省略》によれば、被告丙川は、昭和五〇年一二月、妻と離婚して後、被告乙山と親密な関係となり、一時自己の借受けた家で被告乙山及びその家族と同居していたことがあること、被告丙川は、昭和五一年二月から被告乙山を雇用して喫茶店経営を始めたが、その後は被告乙山とは住居を異にし、以来時々は風呂や洗濯のために被告乙山宅を訪れ、時には食事をしたり泊っていくこともあり、そうした際、被告甲野ら被告乙山の子供達とも接する機会があったことが認められるが、右の事実があるからといって、被告甲野との間に法律上何の身分関係もない被告丙川が被告甲野の行動を監督すべき特段の事情が存するとは到底認められず、他にこれを認めるに足りる証拠もないから、被告丙川は、本件事故につき原告に対する不法行為責任を負うものということはできない。

四  《証拠省略》を総合すると、原告は、昭和五三年九月一五日本件事故による受傷後直ちに救急車で小野市民病院に運ばれ、右眼球にささった鉤を摘出する治療を受けたが、右眼球裂傷のため神戸大学医学部附属病院に移され、同病院に、同日から同年一〇月七日まで入院し、同月八日から同年一一月九日までに九日通院し、同月一〇日から同年一二月一七日まで再入院して、その間同月一二日に右眼球摘出術を受け、その後もガーゼ交換等のため昭和五六年一月三一日までに二九日通院したが、原告の右眼は完全に失明し、将来回復不可能な後遺症として固定したことが認められる。

五  そこで、本件事故により原告が蒙った損害につき順次検討する。

1  治療費 二四万二〇五四円

《証拠省略》によれば、原告は、本件事故による受傷に対する治療費として、小野市民病院に二九四三円、神戸大学医学部附属病院に二三万九一一一円、合計二四万二〇五四円を支払ったことが認められる。

2  入院雑費 三万五〇〇円

原告が六一日間入院したことは前記四で認定したとおりであり、右入院中一日五〇〇円の割合による合計三万五〇〇円の雑費を要したことは経験則上これを認めることができる。

3  入院付添費、寝具借賃 七万三三八〇円

《証拠省略》によれば、原告は、入院期間中すくなくとも二三日間は母親の付添看護を受けたことが認められ、その費用は一日三〇〇〇円の割合による合計六万九〇〇〇円とするのが相当であり、また、《証拠省略》によれば、原告は、その間、付添用寝具の借賃として四三八〇円を支払ったことが認められるから、原告の要した入院付添費と寝具借賃は合計七万三三八〇円となる。

4  義眼装着費 六万二〇〇〇円

《証拠省略》によれば、原告は右眼球摘出手術後義眼を装着しているが、右の義眼装着及びその後の調整等のために、すくなくとも原告が主張する六万二〇〇〇円を支出したことが認められる。

5  逸失利益 六九五万二九四二円

原告は、本件事故により一四歳で右眼を完全に失明し、右後遺症により正常な状態に比し労働能力に減退をきたしたことは明らかであるというべきところ、右後遺症の内容、原告の性別、年令、そして、原告は昭和五七年九月当時高校三年生として成績も特に下るということはなく、機械科への進学の希望をもって普通の学校、家庭生活を営んでおり(《証拠省略》により認められる。)、将来の進路が未定であることからすると、右後遺障害により職種に制約を受けることが予想されるものの、職種によってはその影響を受けないものもあると考えられること、その他諸般の事情を考慮すると、右労働能力喪失の割合は二〇パーセントであると認めるのが相当である。しかるところ、賃金センサス昭和五六年第一表によれば、産業計、企業規模計高校卒男子一八才から一九才の年間収入は一五八万二三〇〇円であり、原告は今後一八才から六七才まで四九年間就労可能であると認められるから、この間の原告の右後遺症に基づく労働能力喪失による逸失利益の事故時における現価を年別ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算出すると、別表(2)記載のとおり六九五万二九四二円(円未満切捨)となる。

6  慰藉料 二〇〇万円

《証拠省略》によれば、原告は、本件事故前は中学で陸上部に所属していたが、右眼失明のためスポーツ等は思うように出来なくなり、平衡感覚にも支障をきたし、長時間の読書にも堪えられない状態となって不自由な思いをしていることが認められ、右原告の後遺症の程度内容、傷害の治療経過及び期間、本件事故の態様、ことに本件事故は結果が重大であったとはいえ、親友同志の魚釣中の極めて不幸な全く偶発的な出来事で、悪質な過失によるともいえないこと、原告と被告甲野との関係その他諸般の事情を斟酌すると、原告が本件事故によって蒙った精神的苦痛に対する慰藉料は二〇〇万円と認めるのが相当である。

7  弁護士費用 九〇万円

本件事案の性質、審理の経緯及び認容額等を総合考慮すると、原告が本件事故による損害として請求しうる弁護士費用額は九〇万円とするのが相当である。

8  入通院交通費

原告は、入通院交通費として合計八万四五二〇円を要した旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

9  損害の填補

原告は、被告らから一五万円の支払を受けたことは原告の自認するところである。

六  被告甲野は、本件事故が起った主な原因は、被告甲野が第三投を行なおうとしたとき、原告が被告甲野の右後方約一メートルの場所に移動して、被告甲野の視界の及ばない後方にまわり込んだことにあり、原告の右過失は本件事故による損害の算定にあたって考慮さるべきである旨主張するところ、《証拠省略》中には、右主張に副う部分が存するが、右供述部分は推測によるものであって、ただちに採用し難く、他に右被告主張の事実を認めるに足りる証拠はなく、前記二で認定した本件事故発生の経緯、態様に照らすと、本件事故発生については、原告に損害額の算定につき斟酌しなければならないような不注意はなかったものと認められるから、被告甲野の過失相殺の主張は理由がない。

七  以上によれば、原告は、被告甲野に対し、前記五1ないし7で認定した損害の合計一〇二六万八七六円から、前記五9の一五万円を控除した一〇一一万八七六円及びうち弁護士費用九〇万円を控除した九二一万八七六円に対する昭和五三年九月一五日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうるものであるが、原告の被告乙山、同丙川に対する請求及び被告甲野に対するその余の請求は理由がない。

よって、原告の被告甲野に対する請求は主文第一項掲記の限度でこれを認容し、その余の請求を棄却し、原告のその余の被告らに対する請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 朴木俊彦 荒井純哉)

〈以下省略〉

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